001_ブランディング
「ブランディング」それは、少なくとも現代を生きる15歳〜65歳の全人類にとって最も必要とされる行為の一つだと言える。皆、早くブランディングをした方がいい。否、しなければならないとさえ思うのだ。2025年。かつてない速度で世界は変わっている。ここから本当の覚醒と実践の時代がはじまる。未来の経済システムや精神世界の息吹を肌で感じていても、どんなに頭で知っていても、ウェブ上でいい話をしていても、実践していなければ知らないも同然。口だけを動かしつつも、現実を「作っていない人」は、社会からも自分自身からも信頼されない。その意味で、全ての人にとってブランディングが急がれている。
ブランディングデザインとは何か。ブランディングデザイナーとは誰か。ぼくは、当のブランディングデザイナーとして、その問いに即答しなければならない。
ぼくがデザインの仕事をはじめたのは、2008年。ウェブ制作会社に就職した時だった。当時から、デザイナーとしてクライアントにヒアリングをする中で、なんとなく「商品がどれだけ役に立つか」よりも「企業として誰を幸せにしたいのか」や「世界のどの領域を変えたいのか」という質問ばかりをして社内外から煙たがられていた気がする。
ちょうどその頃、経済産業省と特許庁から「デザイン経営宣言」という報告書が発表されて、経済ニュースや経営者向けの雑誌でデザイン関連の記事が激増。日本でもようやく「何か、デザインに投資すると4倍の利益を得られるらしいよ。」とか「デザインを重視する企業は、過去10年間で2.1倍も成長したらしいよ。」とか言われるようになって、大企業ではない、中小企業の経営者たちも、デザインやブランディングに興味を持ちはじめたのを肌で感じていた。
デザインの時代が来た。
そう思い上がったぼくは、えいや。と勢いで独立し、ここぞとばかりに「デザイナーとしてブランディングのお手伝いをやっています。」と自己紹介をするようになったのだけれど、「ブランディングって、何をするんですか?」という質問に対する明解な答えを持っていなかった。Googleで検索してみても、それらしき書籍を読んでみても、同じ名称をみんなバラバラに認識していた。ブランディングという言葉には、共通認識も定義もないということに、その時気がついた。
このジャーナルは、ブランディングデザイナーという立場から、今まで体系的に語られてこなかった「ブランディングデザイン」について、明快に定義したいと考えて書き始められたものである。
ブランディングデザインという技術が有効なのは、BtoCの大企業だけではない。5人程度のBtoBの中小企業に対しても汎用性があり、ほぼ全ての業種に応用可能であることが証明される予定である。
何をする仕事なのか。いちばん削ぎ取った形で、掲げておく。
[ 明文化 > 可視化 > 最適化 > 運用 ]
この工程のすべてを自身で考え、決定し、実行するのが、ブランディングデザインである。
現代において、この方程式から逃れてのらくらと生き残れる組織はこの世にない。おおざっぱに言ってしまえば、世の中のほぼすべての組織は、遅かれ早かれこの方程式で生まれ変わらなければならない。アメリカ合衆国であれ、日本キリスト教会であれ、吉本興業であれ、スタジオジブリであれ、ラグビー日本代表選手団であれ、シリコンバレーでスタートアップ計画中の若者たちであれ、殺人事件の捜査本部であれ、町内会であれ、シングルマザーと息子の2人からなる家族であれ。
みんな同じだ。
茫洋とした組織の存在意義を見つめることから始め、それを過不足なく言語化し、何らかの形で可視化して、あらゆるアウトプットから矛盾を排し、仲間や外部の人々に共有する。「自分が本当の本当の本当にしなければならない事」それを宣言し体現するのだ。
ぼくが会社員としてデザインをしていた2000年代には、お前は自信過剰だとみんなに言われた。特に、デザインで上手く成果を出している人たちから。ぼくもいつしか素直にそう思うようになって謙虚になっていったし、実際にただニーズに応じていれば評価され稼げた。けれど、それは、すっかり変わった。マーケットリサーチによる商品開発ではもうどうにもならない。圧倒的な自己信頼に基づくプロダクトアウトは、ほぼすべての組織がしなければならない考え方であり、技術なのである。
これから、それを、書きます。
それはきっと、これからの時代、すべての組織のすべてのメンバーは、お互いの利害を超えた何らかの哲学で繋がる必要があることを意味している。逆から言えば、ビジョンやミッションを共有することで初めて「組織」の名に値するということだと思う。テクノロジーの進歩で即座に人々の欲求が満たされていく時代においては、人と人との魂のつながりを必要としない仕事はなくなる。それは、ビジネスに限らない。人生における多くのことが、この原理に基づいているのではないだろうか。
子どもをつくり、育てること。家庭をマネージすること。年老いて心身にいくつかの問題を抱えている両親と暮らすことなど。これらはどれも、人間にとって、いちばん自然で価値がある仕事だ。その小さなコミュニティは、最初はなんだか茫漠としている。けれど、その中から、いちばん本質的なことを言語化し、ひとつずつ、丁寧に可視化し、共有していく。
ブランディングデザインという技術は、自分が発起人として人と一緒に何かを成そうとする時、すべての人に有効な方法論なのである。自分にとって最も価値があると言い張れる仕事を、人と一緒にするという行為こそ、人間にとっていちばん素晴らしいことだと思う。そして、その筋肉を持っている挑戦者たちだけが、世界をよく変えることができる。
ぼくは信じているのだ。ぼくたちがそれぞれの美意識を運用し、力を合わせることで、不可能なことなんか、この世に存在しないということを。